深川の淋しい埋地を、灯もつけずに行ったおぼろ駕篭が二提あった。その夜深川の信濃屋伝右衛門の寮で、御殿女中のお勝が殺されて近くの堀川へその屍骸が投げ込まれていた。現場にあった脇差しから、その夜寮へ訪ねて来たお勝の幼馴染みで、旗本の次男小柳進之助が下手人として嫌疑をかけられた。進之助は無実を主張して逃げたが、家名を重んずる兄や叔父たちにつめ腹をきらされようとして追われていた。町方の岡っ引き門前の亀蔵は、現場でかたばみの紋のついた女物の紙入れをひろった。それは殺されたお勝のものではなくお勝の同僚で、最近お勝と共にどちらかが中臈にあがるだろうと噂をされていた大奥の女中三沢の持ち物であることが、お勝に仕えていた信濃屋の娘お蝶によって明らかにされていた。昔信濃に使われていて、今はコソ泥の蝙蝠の吉太郎は、この夜寮にしのび込んでいて、侍の供を二人つれたもう一台のおぼ... (展开全部)